都内近郊の駅向かいのビルに、「居酒屋」のフランチャイズチェーンに加盟している店があります。
対象の店は2階で、37坪、ビルは1987年に建てられた物件です。
取り交わしは1997年で、敷金は10ヵ月分です。
頼りにならないFC本部
初期の賃貸料は月40万円だったんですが、3年ごとに5%引き上がる「特約」がありましたので、3年後に42万円にアップしています。
2003年には同ビルの同フロアで、新たなテナントの募集が始まりました。
賃貸料は居酒屋より安く、敷金3ヵ月、礼金と更新料不要という良い条件でしたので、居酒屋の借主は、貸主に賃貸料の引き下げを請求してみました。
要求額は10万円、毎月の賃貸料23万円というものでした。
当初の契約条件を下回る要求だったので、貸主は異議をとなえました。
協議が終了するまで3ヵ月以上もかかりましたが、その結果月37万円の賃貸料に減少しました。
加えて、敷金の4ヵ月分は借主に返金するという条件で落ち着きました。 借主の交渉がうまくいった理由は、次にあげるようなものでした。
① 貸主は顧問税理士に毎月5万円の「顧問料」を支払っていた。
貸主の経費削減として、顧問料やめて、決算期の「決算手数料」のみにするよう借主が助言した。
貸主はこの案を受け入れ、引き下げ分5万円をカバーした。
このことが大きな決め手になりました。
不動産の賃貸業の収入は、賃貸料のみです。売掛けや買掛け、販売物の返品などの細々した経理処理 が一切無いので、月5万円の顧問料はいらないのです。
※借主も税理士に月3万円の顧問料を支払いをしていましたが、この機会に借主もをやめたそうです。
② 店は6年利用しているので、店舗内をリフォームする必要性がありました。
借主は、値下げした分をその費用に充 てる(分割で支払う)ということを貸主に伝えた。
貸主は「そういったことであれば」と同意した。
貸主は募集広告を目にしてすぐ、FC本部(フランチャイズ)に連絡し、どうしたらいいのか指導、協力を仰ぎました。
出店するときには、FC本部が立地条件や取り交わした内容のチェックをして、指導、仲立をしていたためです。
ですが、FC本部は引き下げの相談にはのってもらえませんでした。
賃貸料トラブルに対処ができなかったのです。
加盟店の借主が困っていても、引き下げ請求のノウハウがないので、何をすればよいのかがわからなかったのでしょう。
借主はインターネットを通じて相談相手を探しました。助言を受けながら自身で貸主との交渉にあたり、目的を成し遂げたのです。
FC本部は加盟店をアシストするうえでも、賃貸料変更業務のテクニックを持つことが望ましいと思います。
加盟店が抱えているトラブルを解消する、加盟店の利益を確保することがFC本部の目標でもあるのです。
賃貸料を段階的に引き下げる
関東エリアの建設重機メンテナンス業者が、2000坪の土地を借り入れて、750坪の作業場を建てて営業していました。
この取り決めは「事業用定期借地権」で、土地のみを借りているケースです。貸主は大手企業の関連会社で、地代は月200万円、保証金は1億円という内容でした。
契約したのは1992年で、借り入れ期間は20年です。
借主のメンテナンス業者は、引き下げの交渉を、2003年に貸主に引き下げの請求をしたのです。
土地の公示価格は開始時は推定で坪35万円だったんですが、‥11年後の今では坪12万円に価格がダウンしていたので、大幅な引き下げもできるのです。
ですが、貸主も不景気の影響を受けており、思うようには応じてもらえず、交渉は難航したのです。
貸主は、親会社に提示する「損益計算書」を重視しておりました。
突然の大幅な値下げには異議がありました。 そこで借主がとった解決法が「段階的な賃貸料引き下げ」です。
すなわち、2004年には月170万円の賃貸料にし、2005年からは150万円にするという申し入れです。
このことを貸主が容認して引き下げ交渉は成立したのです。
そして、保証金の分割返還もできました。2004年から毎月50万円ずつ、分割返すというものです。
借主の損益と収支(資金繰り)はよくなりました。支出で50%ほどカットされ、2005年からは、毎月100万円払うことになったのです。
保証金というものは借主の「固定された資金」なのです。
それを分割で戻してもらうというのは、資金を流動化することです。固定化資金を現金にして利用することで、幅広い成果を得ることができます。
さらには、「預託金の保持」という部分でも利点があげられます。
早めに戻してもらうと、貸主経営破たんの予防対策にもなると言えます。
この土地は、賃貸借取り交わしより前に「抵当権」が設定されてました。
すなわち、債権の担保になっている土地です。仮に貸主が破たんをした時に、保証金が返らないこともあります。
こういった危険性を減らす意味でも、保証金の返還は重要です。
ですが一括返還は困難なことが多いので、返しやすい分割返還方式がよいと思います。
一方、貸主サイドが引き下げ請求のわけを察してくれたのは、引き下げ請求を受けて、土地の値段が下がっていたのにを年7・5%の高利回りで貸し付けていたので、さすがに高いと理解してくれたのです。
また、貸主サイドは契約期間の20年後も、引き続き借りてほしいという狙いと、契約が終了した時に保証金を一括に返還することに不安がありました。
そういった貸主サイドの考えを捉えるのも、 交渉には肝心な部分です。
形を変えた解決策の申し出ができることになり、交渉が進展します。
借地借家法では、一定期間賃貸料を増額を行わない特約を認めています。
段階的な賃貸料減額特約は、借主に得する条件ですので、借主保護の法の精神に突き合わせても、この特約は有効だと言えるでしょう。