建物と空き地

借地と借家~それぞれの法律~

地代等増減請求権第11条(土地のみの賃貸借のケース)と借賃増減請求権第32条(建物の賃貸借のケース)の異なる点は「借地」か「借家」か、だけなのです。

法律の条文は、ふだん見慣れていない文章がたくさんあるため理解できないものではありますが、要点をまとめると次のようになります。

①借主は「取り交わしの条件にかかわらず」、値下げの条件が整えばいつでも引き下げを要求することが可能。貸主も賃貸料の値上げを求めている権限がある。お互い互角の権限がある。    

②「租税公課」、「土地の価格」、「建物の価格」、「経済事情」に動きがあった時には、賃貸料変更の交渉ができる。

③近傍類似・近傍同種の物件賃料と比べて不相当の際には、賃貸料変更の交渉ができる。

④増額は行わないという特約は有効。

①の「取り引き条件に関係なく」は、増額特約があっても減額請求ができる、賃貸料の改定時、あるいは契約の更新時でなくても、いつでも賃貸料引き下げ請求は可能だという意味です。

加えて、借主と貸主はお互い互角の権限がありますから、双方ともにうしろめたい気持ちや遠慮を持つ理由などないと言えます。

②の「土地の価格」、「建物の価格」、「経済事情」に上げ下げがあった時には、賃貸料改定の交渉ができるのも、繰り返して話してきたので把握できると思います。

この点は、引き下げ請求の大きな理由だと思います。

賃貸料と租税公課の関係

「租税公課」の「租税」とは、ほぼ土地や建物の「固定資産税」と「都市計画税」ということです。

「公課」とは、租税以外の公の金銭負担になります。例として、公の施設の管理費、組合費、排水負担金などが該当します。  

貸主は、好景気のころは「税金が上がったので、賃料を値上げしたい」とよく言いました。

今では租税公課は下かっているので、逆に「税金が下がったから、値下げしてください」といいたいところですが、実は、減税額はわずかなので、今のところ賃料値下げの大きな効果はでてきません。 

土地の固定資産税は下がる傾向にあるという程度で、建物の固定資産税も、3年ごとの再評価で若干の値下がりが続いているというくらいです。

1年での減税幅は微々たるものです。 

ちなみに、増税の時にも、負担に感じるほどのものとはなりません。 という訳で、賃料を減額してもらえれば、「租税公課の増額分においては借主が負担します」と、貸主に申し出ることをしてもいいと思います。

額は大きなものとはなりません。

逆に貸主としては心情的にプラスに受け止めます。 不景気が長い間続いているのだから、もっと減税すべきだという意見もあります。

しかし、固定資産税などは地方税として市町村の大きな財源になっているので、経済状況の上げ下げとは関係なしで大きな減税にはならないと考えられています。 

加えて一般に、貸主は固定資産税や都市計画税や公共の負担金などの減額分を借主に伝えません。 貸主の税金の増減は、借主にはわからないのです。

地方税法の改正で、2003年から貸主の「納税証明書」が借主にも取得できるようになりましたが、かつては証明書が取れなかったので、増減の事実を借主が把握することができませんでした。

ということで、借地借家法の規定なども問題点があげられます。どちらにしても、現段階では租税公課の増減幅は少額なのです。

あてにならない賃貸相場

要点③の、「近傍類似」の土地の賃貸料、「近傍同種」の建物の賃貸料、いわゆる「周囲の賃料相場」です。

共通した物件の賃貸料を目安にしてしなさいということです。 「入居者募集」や「テナント募集」の貼り紙も「相場」と考えられます。

ですが、賃料は個別的な要因や契約条件が混ざり合って決定するものになります。その要因とは主として以下のようなものが考えられます。

・預託金(保証金、敷金、建設協力金)

・契約や更新の期間

・貸主の投資額や回収率

・使用目的や立地条件

・貸主と借主の交流関係や経済状態によっても差が出る。  

1つの例として、経済状態を着目してみますと、東京都心に最近できた豪華高層ビルの例ですが、年間1億2000万円のテナント料の物件があります。

ですが噂では、最初の1年間は賃貸料が0円だといわれています。

これは「フリーレント制」と言われるもので、貸主と借主の間の特別な約束なのです。

年間1億2000万円がそのようなビルの相場とはいえないことになるわけです。

実際は確認できないあやふやな噂のが周辺相場賃料なのです。 

また、「ロードサイド店舗(郊外立地店舗)」は、賃料の平均値を見極めるのは困難なことがわかると言えます。

同じ地域にある店舗でも駅に近いほう、または角地のほうが賃料が上がるのは当然なのです。商売のジャンルによってかかる建築費用も異なります。

新築か中古かでも差がでます。店舗に関しては個別的な要因がほとんどですから、まわり賃料の実態はつかみにくいと言えます。 

より的確な周辺賃料を知るには、各々の契約事項を調査し比べてみることです。

ですが、賃貸借契約の公開制度がないので、第三者が契約条件を知ることは不可能です。

すなわち、「相場賃貸料」は、適当な賃料なのです。 

とは言え、不動産業界では「この近辺の賃貸料相場に比べて…」などと気軽に利用されています。

実際は、噂や推測の不確実なものですが、借主もあまり意識することなく、だれも疑問視しません。 裁判所も、わりと気にせず使っています。

「近辺の賃料相場と比べ、相当性を欠いていない」なんて具合に判断のひとつの目安にしています。

「借地借家法」は良い法律なのですが、「近傍類似」「近傍同種」の物件賃料と比較してという規定には不都合です。

「相場賃料に惑わされない」かが不可欠です。 ですので、賃料の減額交渉においても「相場賃料」は使えません。

相場を調べることが厳しいので、貸主側から裏づけを求められると、立証ができないで手詰まりになります。

近辺の事例をもって、現在支払っている「継続賃料」の不相当性を証明することは困難なのです。

「継続賃料」とは、減額請求が遅れている賃料です。

長期にわたり、契約条件が変化することなく続いている不適正な状態にある賃料です。 

しかし、マンションや銀座のクラブなどは、「募集賃料」は貸主の要求内容が開かれていますから参考になります。

その賃料が周辺の適正賃料ではないでしょうが、現在借りている物件に比べて、高くない賃料であれば参考になります。

借主を守る

④の「増額はしないという特約はその定めに従う」というのは、借主保護を確実に打ち出している規定です。 

裏を返せば、「引き下げをしない特約」や「増額をする特約」は、借主保護の、法の精神に確実に反するので有効とは言えず、無効に近い特約と解釈してくれといっているのです。  

事実、「増額はしない」という借主に優位の特約が結ばれる場合があるのでしょうか…。まずないでしょう。  

一見すると借主を守っているように見えますが、もっと確実に「増額特約は無効」と明記すべきです。

「借地借家法」では「契約の条件にかかわらず」減額を請求することができるになっていますから、賃貸料増額の特約条項があっても気にせず、賃貸料引き下げの申し入れをしましょう。