今回のお話は、賃貸料の直接的な引き下げ交渉とはいえませんが、借主、貸主双方に収益をもたらす合わせ技です ので紹介します。
「事業用定期借地契約」で160坪の土地を借りて営業している、社のケースです。
[事業用定期借地契約]は、契約期間が10年から20年です。
土地のみの貸し借りですので、建物(43坪)はA社のものです。
A社は10年契約で、月27万円の地代と敷金300万円で借りました。
その10年の契約が満了になったら、A社は建物を取り壊し土地を更地にして大家に返すか、再び契約をするかを選択することになります。
事業用定期借地契約の取り決め内容
店の業績はそれなりにで黒字でしたので、A社はあと2~3年は営業していけると思っていました。
大家も再契約をして「借り続けてほしい」と願っていました。
しかし、「事業用定期借地契約」ではこの先最低10年は借りなければいけません。A社は「10年問も借り続けることができるのか?」と悩みました。
そこで借主に「定期借家契約」にして、3年間だけ借りたらどうかとアドバイスをしました。
「定期借家契約」は、1年未満の契約もOKなのです。ただし、3年なら3年の契約満了時には必ず貸主に返さなければいけません。
法定更新はできないのです。
そこが通常の借家契約と異なる点です。
さて、「定期借家契約」といっても、建物はA社の資産ですから、これを土地所有者である大家に買ってもらわなければいけません。
そのうえで、新たに土地と建物を借り入れることになります。
大家はこのアドバイスを受け入れて、A社の店舗を360万円で買い入れ、3年間の「定期借家契約」を結びました。
当初、A社は店舗の建設に3000万円を費やしていましたが、10年間にほとんど償却し、償却残は360万円でした。
そのためその価格で売却することができたのです。
借主のメリット
その上、もし「事業用定期借地契約」に従って契約が終了したときには、建物を撤去して更地にする費用が130万円から150万円必要だったのが、その建物は貸主の所有になったので、
借主は、その経費の心配もなくなりました。
新しい賃貸料は、土地と建物を借りるので、月45万円に上がりました。
大家の店舗購入金360万円を3年の賃料相殺(36ヵ月×10万円)で清算することになったので、借主は毎月35 万円の支払いでいいことになりました。
それまでの土地代は27万円だったので、支出を8万円増やすだけですんだのです。
これ以外にも、「定期借地契約」で生じたA社のメリットには次にあげるようなものがあります。
・建物の「除去損計上」がなくなるので、損益計算書がよくなった。
・業績予測が確実にわかるので、」定期間の収益が保持される。
・賃貸料は営業利益を確保して決定したので適正であり、確実な黒字の獲得となった。
・ 「固定資産の流動化」ができ、現金化することができた。
・建物の固定資産税が大家負担になった。
大家のメリット
・地代から家賃になり、賃貸料収入が多くなった。
・契約期間が延びたので継続して収入を得ることができる。
・建物の「減価償却費」を計上することで節税になり、キャッシュフローが増えた。
・この先、土地の利用計画が立てやすい「定期借家契約」になった。
・定期借家契約での、再契約もできる状態になった。
・建物が中古なので修繕費はすべてA社負担という条件をつけれた。
※定期借家制度は、事業用定期借地制度の不具合を解消するために作られたといってもよいでしょう。
うまく利用することで、大家と借主お互いが得をすることができます。
度々触れてきましたが、バブル崩壊後の経済状況は著しく変化しました。
賃貸料もその変化に応じて、早いとこ減額の修正をしなければなりません。
もうお気づきのことと思いますが、賃貸料の引き下げは、賃貸借条件の一部を作り変えることにすぎないのです。
契約条件のほとんどは、経済の拡大、成長、好景気等を前提とした戦後60年間の延長線上にあるのです。
引き下げ交渉の「合わせ技」もそのような角度から提案しています。
これまでを見直す、修正変更する、断ち切ることが重要なのです。
問題意識をしっかりと持って交渉に取り組んでください。