賃貸料引き下げの交渉は、賃貸料を下げるのが目的ですが、ただ単に賃貸料を下げるために、一途に進めていくだけで解決することはありません。
いまの経済社会は構造的に大幅に変化しています。
なので、賃貸料値下げというひとつのことをとらえて手直ししていこうというだけでは、思い通りにならないのです。
引き下げ請求と合わせて、賃貸借契約の取り決め内容の修正も視野に入れて交渉することが不可欠です。 「償却資産」と「預託金」は、フルに活用することをすすめます。
償却資産とは何か?
借主の償却資産とは、電気設備や空調設備などのです。借地のケースはもちろん建物も含まれます。
預託金は、大家に預けている敷金、保証金、建設協力金などがそうです。
償却資産を大家に売って流動化させるとか、預託金を段階的に返還してもらって保全する(リスクヘッジ)という交渉も、値下げ交渉と同時に進めるべきだと思われます。
これを私は賃貸料引き下げ交渉の「合わせ技」と呼んでいるのです。
そうするためには、償却資産や預託金に対する契約条件、先入観や固定観念を見直して、過去の延長を断ち切ることが不可欠です。
そうしないと変化に対応した引き下げ交渉はできません。
償却資産を売却する「リースバック方式」についてくわしく説明します。
リースバック方式とは
「リースバック方式」は、主に「借家方式」のケースに利用できます。
つまり、借主が建物を借りている場合の方法です。建物は貸主の資産になっているケースです。
交渉をしても賃貸料を引き下げできないとき、もしくは減額率が低い場合に、ひとつの解決策として、借主が保持している資産を借主に売却することです。
その資産とは、すでに述べた電気設備、空調設備、舗装路面、内外装設備のほかに、給排水設備、看板等があります。
「不動産投資信託」の事業も一種の「リースバック方式」です。「リースバック方式」にすると借主の付加価値は大きいです。
まず「減価償却費」が減少しますから、損益計算書が改善、場合によっては「売却益」が計上できます。
その資産設備を、つまり「減価償却資産」を帳簿価格より高く売ることもできるからです。
もちろん、その設備の取得価格(新品価格)よりも高い値段で売却することは問題です。
また、償却資産というのは決まっています。
お金が資産に変わって、そこに寝ているみたいなもんです。
それを売れば現金になり、資金繰りがよくなるなど、大きなプラスになります。これを「償却資産の流動化」といいます。
一方、「リースバック方式」は貸主の側にも利点があります。
何度も言っていますが、まず「節税」になります。借主の減価償却資産を買いますから、減価償却費の計上で、課税所得が減って、納税額が減ります。
そしてこれは、「キャッシュフロー対策」になります。減価償却費というコストは外部に出て行くことではなく、帳簿上の経費です。
ですから、その分だけキャッシュが手元に浮くということです。
また、大家は購入代金を賃料と相殺の分割払いにする条件もつけられますから、購入といった場合多額の資金調達をする必要がありません。
さらに、「中途解約」の対策としては、「資産を買ってあげますけど、もし中途解約したら違約金として残りの金額は返済しませんよ」という条件もつけられます。
以上のように、「リースバック方式」は貸主にも大きなメリットがあげられます。
大家にとっては、単純な賃貸料引き下げよりプラス面が多いこともあるので、借主側も「切り囗」を変えて交渉に臨むことが重要になります。
稼動していない資産はどうするか
大家の資産の状態や経済状態にも目を向けるべきです。
さきに「実例」で紹介した「中華料理店」の大家のように、賃貸料収入で借金の返済をしているかもしれません。
こういうパターンは、実はかなりあるのです。
土地が上がるという前提で貸主は土地を買ったものの、地価が暴落した現在では借入金の返済に苦労しています。
そういう貸主の負の資産を「不稼動資産」といいますが、これには土地・建物のほかにゴルフ会員権、リゾートマンションの会員権など、多種多様です。
最低の場合、その貸主の不稼動資産を処理して借入金を削減することを借主が提案して、決断してもらう必要があります。
資産を「損切り」して改めてスタートすれば、経営環境、生活スタイルがまったく変化するのです。
これも合わせ技のひとつです。